277. 後夜祭・開票結果(クラス)

講堂の舞台上に生徒会長アリスタルフ・クローエルが登場し、後夜祭の開始を宣言した。

湧き起こった大きな拍手に、女生徒たちの黄色い声が混じる。

おそらく乙女ゲームの攻略対象者なのであろうアリスタルフは、顔立ちは美人と言いたいほど女性的だが、身長は高く、細身でありつつ肩幅や胸板はしっかりある。優しげでありながら頼もしく、舞台に一人立つ姿は絵画のよう。騒がれるのも無理はない。

ソフトなのによく通る心地よい声で、アリスタルフはまず皆にねぎらいの言葉をかけ、それぞれの努力を称えた。

「皆さんの創意と努力により、今年度の学園祭は例年にも増して多くの来客を迎えました。お客様方からは、大いに楽しんだ、素晴らしい学園祭だったとのお言葉を多数いただいています」

その言葉に、わあっと歓声が湧く。

来客の多さは、皇子ミハイルと、公爵令嬢エカテリーナの存在が主な要因だと、ほとんどの生徒が理解している。それでも、それぞれなりに時間をかけ工夫を凝らした展示や演目が評価されれば、もちろん嬉しい。

でも一番頑張ったのは、当の生徒会長と生徒会役員だよね。学園祭執行部なんだから。

大きなトラブルなく学園祭が終わって、本当に良かったです!

そう思って、大きな拍手を舞台上に送るエカテリーナであった。

舞台袖から現れた二人の生徒会役員が、アリスタルフのもとへ大きな台を運んできた。そこには見覚えのある投票箱が載せられていて、クラスや人ごとにまとめられた集計済みの投票用紙も載っているようだ。

観客席の生徒一同から、明らかな熱気が立ち昇る。

自信のある者やクラスはもちろん、そうでない者たちにとっても、ランキングは興味を惹きつけられるものなのだ。

「皆さんご存知の通り、学園祭に参加された来客、教員、生徒を問わず、最も優秀なクラスと最も活躍した人を選んで投票していただきました。大切なことなので申し上げておきますが、票が入らなかったクラスはひとつもありません。皆さんの頑張りは、誰かが必ず見ていたのです」

生徒会長、見た目の通り優しい。いいこと言うなあ。

そういえば前世で、どこかで誰かが見ていてくれる、っていうタイトルの本を読んだことがあった。時代劇の切られ役(モブ)専門みたいな役者さんについての本だったな。その本が出版された後になって、その役者さんがハリウッド映画に出演して超大物俳優(トム・クルーズ)と共演した……っていう驚きのタイトル回収があったそうな。

まあ票については種を明かせば、親とかが子のクラスに票を入れるから。票が入らないクラスはないほうが自然。

でもこういう一言があれば、多くの票を集めたクラスを気持ちよく祝福できる空気になる。さすが、生徒会長。調整型リーダーとして優れた人材ですよ。

魔法学園で生徒会に選出されると、どこかしらの役所からスカウトが来るのが慣例だと聞いたっけ。会長なら部下にも上司にも望ましい人柄だし、きっと引き合いがきているだろう。

いつか役所で、官僚トップ的な立場まで登り詰めたりして。

そしてその頃には、宰相とかになったお兄様や皇子と一緒に、国を動かしていくようなことになるのかも……。

会長!お兄様の過労死フラグを折るために、めっちゃできる官僚になってお兄様を支えてください!

ブラコンとして念を送るエカテリーナである。

「それでは、優秀なクラス、活躍した人、共に上位三位までを発表します」

講堂の観客席を見渡して、アリスタルフは微笑む。怪しい念は感知していないらしい。

彼の傍らにある、先ほど運ばれてきた台の上に積まれた集計済みの投票用紙は、クラスごと人ごとに束ねてあるようで、六つに分厚く積み上がっている。

そして、その厚みは明らかに異なっていて、アリスタルフから遠い束ほど厚い。

最初に、優秀なクラスの第三位が発表される。

講堂に緊張が満ちた。三位ならもしかしたら……と望みを持つクラスの生徒たちが、固唾を呑む気配。

前世ならドラムロールが鳴るところですね。ダラララ〜〜って。

なんて考えたら脳内に流れてしまったエカテリーナであった。

そんな脳内ドラムロールの盛り上がりと共に学年とクラスが発表され――息を呑む。

一年生の、リーディヤのクラスだった。

そのクラスの生徒たちは歓声を上げ、躍り上って喜んでいる。クラスが一体となって臨んだ合唱への評価だから、さぞ嬉しいことだろう。

まあ、一番評価されたのはリーディヤの独唱であろうが。

クラスの代表へ壇上へ上がるよう呼びかけがあると、当然のようにリーディヤが立ち上がった。はしゃぐクラスメイトたちとは違い、落ち着いた、澄ました表情だ。

高位の貴族令嬢らしく足取りひとつまで美しいリーディヤが舞台に上がると、第二位のクラスが発表された。

今度は三年生。

アレクセイのクラスだった。

きゃーっやったー!

お兄様!ニコライさん!おめでとうございますー!

大喜びするエカテリーナ。隣のフローラも一緒に大喜びだが、マリーナの歓声がひときわ大きい。ツンデレタイプのブラコン娘も、今は心置きなくデレているようだ。

クラスの代表として舞台に向かったのは、ニコライだった。アレクセイが後夜祭に来ているとしても、馬上槍試合への参加は代理でだったので、代表ではないのは当然だろう。

そして、第一位。

発表前に、異例の状況となった。講堂にいる生徒、いや教職員まで含めた多くの視線が、ひとつのクラスに集中したのだ。

その視線の先、エカテリーナのクラスだけが、そわそわドキドキしている。

はたして。

アリスタルフが告げたのは、エカテリーナのクラスであった。

クラス一同が歓声を上げ、講堂全体から拍手喝采が湧き起こる。エカテリーナはフローラ、マリーナに抱きつかれ、ちょっとだけ公爵令嬢の慎しみを忘れてきゃーきゃー喜び合った。

いやー、良かった!

劇を上演できて良かった。舞台で台詞が吹っ飛んだのは今思い出しても怖い思い出だけど、でもやっぱり代役を申し出て良かった。クラスの皆の、一生の思い出になるもの!

……ところで、クラスの代表としてあの舞台に行くのは、私ですよね……。

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