238. 光の魔力(パフォーマンス)

「まず、舞台上で演者に光を当てる演出をお願いいたしますわ――フローラ様、よろしゅうございまして?」

「はい、エカテリーナ様」

最初に、スポットライトをリクエスト。教室の中はかなり暗いが、隣の人がまったく見えないほどではない。エカテリーナの呼びかけに応じて、隣のフローラが立ち上がるのがわかった。

ユーリの魔力が高まるのを感じると、フローラの周囲がぼうっと光る。

(おお……っ)

エカテリーナは目を見張った。

前世のイメージから、スポットライトを円錐形で予想してしまっていたけれど。フローラは、彼女自身が光っているかのように、楕円形の光に包まれている。

そうか、ライトの光で演者を照らす前世のスポットライトと違って、光の魔力だとこういうことができるのか!

イメージ修正、修正。スポットライトの目的は対象者を目立たせること、前世と同じでなくても構わない。

ていうか、これはこれで前世のスポットライトよりいいかもしれない。フローラちゃんが光の繭に包まれているみたい。前世の舞台演出家だって、同じことができるのなら、こういう演出を使いたいと思うかも。

「素敵ですわ!フローラ様、聖女らしく神々しく見えましてよ」

「すごく……不思議な感じです」

戸惑いも見えるが楽しそうに、フローラは手を伸ばして光の中から外へ手を出したり戻したりする。

「レイ様、お疲れではありませんこと?」

「これくらい全然……ただ光を保つだけならまだまだ続けられます」

へへ、と頭を掻くレイは、確かに余裕そうだ。

「では、光をフローラ様の手に集めることはできまして?手の上に光が載っているように」

エカテリーナが言うと、すうっと光が収束してフローラの手の上に光の珠が現れた。収束した分さっきまでより光が強かったが、すぐ先ほどまでと同じくらいの、やや淡い光になる。ユーリが調整したようだ。

美少女の手の上にふわりと浮かび、白い光を放つ珠……実にファンタジックな絵面だ。

「お見事ですわ。これほど細かい制御までお出来になるとは、素晴らしい技術と存じます」

「あ、これくらいは。僕、実家だとランプ代わりに使われてて……ちょっと光が強すぎたり弱すぎたりすると、兄や姉にボロクソに言われるもんで……」

「……」

そういえば、ユールノヴァ領に弟を一刀両断する姉がいたが……やはり弟はパシリ的に使われるものらしい。

「これ、とっても素敵です。手の上に光が……!」

フローラが珍しくはしゃいだ声を上げる。彼女がそっと手を上下させると、光の珠もふわふわと上下した。もちろん、ユーリが制御しているのだ。

「エカテリーナ様、どうぞ!」

フローラの声と共に、光の珠はエカテリーナのほうへふわりと投げ上げられた。思わず出した手の上に、ふわりと下りる。

「まあ……」

エカテリーナは微笑んだ。

こ、これは楽しい。漫画やアニメによくあったやつ……それが、現実で!

しばしフローラと同じように手の上でふわふわさせて楽しんだ後、フローラへ光を投げ返す。と――光が二つに分かれた。ひとつはフローラへ、ひとつはエカテリーナの手の上に。

「レイ様!複数を同時に制御できますの⁉︎」

思わず声を上げると、二つの光の珠がさらに分かれた。十数個くらいか、それが、明滅する。

すごい、めちゃくちゃ幻想的!

と思ったとたん、二つに戻った。

「す、すみません、ちょっと多すぎた……」

明滅したのはわざとではなく、限界だったせいらしい。

とはいえ頼むと、二つを明滅させてくれた。それを大きくしたり、フローラの周囲に光の珠をクルクル回らせたり、閃光にして炸裂させたりと、戦闘シーンの演出に使えそうな制御がいろいろできることを見せてくれる。数も、四、五個くらいなら大丈夫だそうだ。

「お疲れではありませんこと?」

「この程度の光量なら、まだまだいけます」

確かに、感じる魔力は使用量的にはそれほどではなさそうだ。エカテリーナの土魔力で例えれば、ポコポコ土ぼこを盛り上げるくらいの感じか。とはいえ制御の繊細さでいえば、土ぼこをまったく同じ大きさと形でずらりと作って写実的な絵を描くとか、そういう感じの難しさがあるはずだが、ユーリはなんなくこなしているから大したものだ。

実験終了して黒いカーテンを開くと、空は残照を残すのみとなっていた。

しかし今まで暗くした部屋にいたので、暗さに慣れた目には明るく思える。

ユーリはちょっと疲れて見えるが、充分に元気、というか高揚した様子だ。魔力の消費量は大きくないとはいえ、あれだけ繊細な制御を続けて、まだ元気なのは若さだろう。

高校生男子ってほんと元気だね!

とエカテリーナは微笑んだが、思春期の男子が学年きっての美少女二人にきゃーきゃー言われ(魔力をだが)たのだから、いくらでも頑張れて当然ではないだろうか。前世アラサーだからとなんでもお見通しなつもりで、抜けまくっているエカテリーナである。

そこで改めて、エカテリーナはユーリに言った。

「レイ様の魔力は素晴らしいですわ!ぜひ、劇の演出に使わせてくださいまし!」

というか、なんなら単独でも立派なエンタメになりそうだ。今まで光の魔力がそういう使い方をされてこなかったのが、不思議なくらい。

「ありがとうございます、そう言っていただけて嬉しいです……こんな遊びみたいに使うと、怒られそうに思っていたんですけど」

「ああ……」

ユーリの言葉で、謎はあっさりと解けた。皇国では魔力は貴族の権威そのものだから、もったいぶった使い方をしないと怒り出す人は確かにいるのだ。

フローラの義父母であるチェルニー男爵の夫人は、火の魔力を料理に活用しているそうだが、そういう使い方が怒られる代表かもしれない。日常のほのぼのではなく、戦闘とかに使うのでないと駄目なイメージはある。

「そうですわね。学園祭で多くの方にご覧いただいた場合、そういうご意見が出る可能性は考えておきませんと」

「……ですよね」

光の魔力は劇に使えない、という意味にエカテリーナの言葉を取って、ユーリが肩を落とす。

しかし、すぐにエカテリーナは言葉を続けた。

「ですから、クラスの発表は『光の魔力制御の可能性探究』であるとし、劇の上演はそのための手段ということにいたしましょう。魔力制御を学ぶことは、魔法学園の生徒の本分ですもの。その創意工夫を発表するのであれば、どなたにも否定はお出来にならないはずですわ」

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