281. にぎやかな日常

エカテリーナが少し驚いたことに、学園祭が終わった翌日にはもう、魔法学園の生徒たちは来月の舞踏会へ向けての期待や不安でいっぱいになってしまったようだった。

切り替えが早い……これが若さか。

でもまあ、無理もないよね。舞踏会のダンスパートナーを見つけなければならないというプレッシャー、あまりに大きすぎだよ。

自分の高校時代にこんなイベントがあったらと想像すると……いろんな意味で、ひええええ。

自分がパートナー探しで苦労することより、高校生学園コンという前世の感覚ではトンデモすぎるイベントにネットが大炎上するところを想像して、震えてしまうエカテリーナである。

とはいえクラスメイトは皆あらためて、エカテリーナに学園祭で最も活躍した人一位に選ばれたことへのお祝いを言ってくれた。エカテリーナの隣のフローラにも、見事な主役ぶりを称賛する声が相次ぐ。

エカテリーナもあらためて、優秀なクラス一位に選ばれたことを喜び合い、それぞれが果たした役割への感謝や称賛を伝える。

光の魔力使いのユーリには、特にねんごろに称賛を伝えた。そして、典礼院からの引きがきて、将来が拓けたことへの祝福を。

「ありがとう。本当に何もかも、君のおかげだ」

微笑むユーリは、ほんの数日前とちょっと印象が変わったようだ。見るからに陰キャという感じが薄れて、自信が感じられる。

うん。彼は特にパートナー探しが大変じゃないかと失礼ながら思ってしまって、将来有望なところを皆に聞こえるように言ってみたけど、これなら心配いらないかも!

お姉さんとして面倒を見たつもりのエカテリーナだが……きれいに繕ってもらったシャツをそっと撫でているユーリの自信が、どこからきているかには気付いていない。今日も安定してこの方面にだけ、壊滅的に鈍いのだった。

マリーナには、ニコライが最も活躍した人の二位になったことへの祝福を伝えた。うっかり一位になってしまった身としては、気後れもあったが。

「兄のような大猿が、最も活躍した『人』の一位などおこがましいというものですわよ。エカテリーナ様が選ばれるのは当然ですわ。二位でも驚きましたのよ!」

気後れなど、マリーナは元気に笑い飛ばしてくれた。口とは裏腹に、ニコライの二位がよほど嬉しいようで、笑顔が輝いて見えるほどだ。

王道ツンデレは、デレが透けて見えるツンが至高……!などと思うエカテリーナである。

「エカテリーナ様が選ばれて、兄君、公爵閣下がさぞお喜びでしたでしょう」

「ええ、そうですの」

マリーナの言葉で、ブラコン同士の会話はエカテリーナのターンとなった。

後夜祭が終わってエカテリーナが寮へ帰ろうとした時、アレクセイが歩み寄ってきた。

そして、ひしと妹を抱きしめた。

「私のエカテリーナ。誇るべき我が妹。私にはわかっていた、選ばれるのはお前以外にあり得ないと」

いえお兄様、その確信はシスコンフィルター由来です。

とは言わずに、エカテリーナは喜んで兄に抱きつく。

「クラスの皆様のおかげですわ、特にフローラ様の。台詞を忘れてしまったこと、申し上げましたでしょう」

「そうだな、フローラ嬢もマリーナ嬢も見事だった。光の魔力にも驚かされた。だがやはり、お前の功績だ」

エカテリーナの頬に手を添えて、アレクセイはしばし妹の顔を見つめる。

「お前は本当に美しい」

しみじみと言って、再びそっと抱きしめた。

「これほど美しいというのに、優しく、賢く、才気にあふれているとは。なんという価値あるものを、私はこの腕に抱いているのだろう」

私は才気にあふれていないんです。そう見えるのは前世にあふれていたエンタメの記憶のおかげと、お兄様のシスコンフィルターが高性能だからです。

とは言えずに、エカテリーナはつんつんと兄の袖を引いた。

「お兄様は、学園祭を楽しまれまして?」

「ああ、一生忘れることはないだろう。それほど楽しい三日間だった」

「嬉しゅうございます。わたくしはなにより、お兄様に楽しい時間を過ごしていただきたかったのですもの。いつもお家のために、お仕事ばかり。ご自分のことも、もっといたわってくださいまし」

「私のためか……?」

アレクセイはネオンブルーの目を見張る。

「優しい子だ、お前は。お前の魅力は『征服されざるもの』(アダマス)が放つ七色のきらめきのように、多彩に輝いているね。宝石の王者といえど、お前に比べればしょせん石ころだが」

「お兄様ったら」

征服されざるもの(アダマス)とは、古代アストラ語でダイヤモンドを意味する言葉だ。古代アストラ語の語彙も少しずつ増えてきたエカテリーナである。

前世でも、高価で貴重な宝石といえばダイヤモンドというイメージがあった。けれど前世での知識では実は、宝石の中では産出量は少なくはなく、稀少なものとは言えないそうな。ただ、ダイヤモンドの流通を仕切るとある会社が、絶妙な市場コントロールとイメージ戦略で、そういう印象を創り上げていたらしい。

でも、その某社が存在しないこの世界でも、ダイヤモンドの輝きは宝石の王者と呼ばれるほど人々を魅了しているんだなあ。実は令嬢生活で大きなダイヤモンドを身につける機会もあるんですが、確かにダイヤモンドの輝きってちょっと特別ですよね。

そして鉱物マニアの鉱山長アーロンさんの話で知ったけど、この世界この時代では、ダイヤモンドの研磨はまだほとんど機械化されていない。かなりの部分が人力。

だからすごい労力が必要。だからダイヤモンドは前世以上に高価。

そのダイヤモンドを、私に比べれば石ころとおっしゃる。お兄様のシスコン硬度はダイヤモンドを超えているに違いないです!

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