228. スーザン某と桃太郎

そんなわけで、学園祭でクラスが発表する劇の脚本を書くことになったエカテリーナだが。

書き始めて、めちゃくちゃ後悔した。

うわーん、私のバカーっ!

乙女ゲームのエカテリーナと同じ、劇の主役という立場はどうしても回避したかったけど!

なんで脚本係なんて選んじゃったんだー!

学園祭のクラスの劇なんてガチに考えるもんじゃないし、桃太郎をこの世界バージョンにすればいいだけなんじゃ?なんて思った自分を殴りたい。

だけ、で済む訳ないだろー!

そもそも、歌劇なんだよ。

このクラスには、つい先日音楽神様から招きを受けて音楽神殿入りした、全校注目のオリガちゃんとレナート君がいる。クラスで劇をやるからには、音楽の要素を入れてオリガちゃんが歌いレナート君が楽器を演奏しなければ、周囲に納得してもらえない。

というか、そんなすごい人材を活かさないなんてもったいないこと、誰かが許しても私が許しません。皆に二人の音楽を聴いてほしい!

でも、脚本を書くハードルは上がる……。

そして、オリガちゃんにどんな歌を歌ってもらうかを考えて、その歌を話に取り込まなければならない。

お話の場面に合わせた歌を作詞作曲する、なんてことは私にはできません!知っている曲を当てはめるしかない。でもそんなに選択肢があるわけじゃない。

そして……せっかくの機会、オリガちゃんに歌ってほしい歌がある。

音楽の夕べで初めてオリガちゃんの歌をしっかり聞いた時、思ったんだよね。オリガちゃん、皇国のスーザン・ボイルだって。オリガちゃんが彼女の出世曲を歌ったらどうなるだろう。

絶対いい……。

が。あれをどう、桃太郎に取り込めと!

いや桃太郎でなくてもいいんですけどね。

でもじゃあどんな話を……あの歌はもともとミュージカルの曲だけど、あの壮大な物語を、学園祭の素人劇で上演とかないない。時代背景の問題もあるし。皇国は絶対王政的な体制、そこに市民革命を背景にした物語……ひええー、あり得ない!

あ……思い出しちゃった。あの物語の作者ヴィクトル・ユゴーって確か、著作権に関する国際条約、ベルヌ条約の誕生と関わり深い人だわ。

知的財産について習った時にそんなビッグネームが出てきて、思わず検索しましたよ。文学史に名を残す文豪でありつつ、政治家でもあったそうで。

日本だと、そういう方向で著作権に関係ある著名人は、西條八十さいじょうやそかな。唄を忘れたかなりや、とかで有名な詩人であり、蘇州夜曲とか青い山脈とか昭和の大ヒット曲の作詞者であり、英文学の大学教授だった人なんだけど、JASRACの前身である著作権の協会の会長もやって、著作権の認知拡大に尽力したと、昔読んだ伝記に書いてあったような。

……。

はっ、いかん!頭が、創作から逃避している!

頑張れ自分!うなれ桃太郎のポテンシャル!一時期携帯関係のCMがどれもこれも桃太郎だったような記憶があるくらい、彼の可能性は無限のはず!

絶対、マリーナちゃんにお猿さん役でアクションしてもらうんだ。運動神経抜群の彼女、きっと格好よくて可愛い。

あ、でもアクションするお猿さんなら、他にもあるか。

西遊記。孫悟空。

あっちのほうが、この世界に当てはめやすいかも?よし乗り換えを検討しよう(あっさり)。いや桃太郎だって、乗り換えがお得って言ってたし。携帯のCMで。

うーんその場合、河童の沙悟浄と豚さん猪八戒役は誰にしよう。いやその前に三蔵法師か。

そしてあの曲をどうすれば!

ていうか、ものすごくうろ覚えなんですよ……英語の歌だしねえ。日本語訳バージョンもあるから、ある程度は記憶にあるんだけど。曲もすごくあやしいから、レナート君にお願いして、ほぼ作り直してもらうことになるかも?

「お嬢様」

きゃーっ!

ミナに声をかけられて、ベッドの中のエカテリーナは頭から被っていた絹の掛け布団ごと跳び上がりそうになった。

そう。今はもう寮の消灯時間を過ぎていて、良い子は眠っているべきなのだ。エカテリーナも寝支度をして横にはなったものの、脚本の構想を練る気まんまんで、ひたすら考え込んでいたのである。

「眠れませんか。ミルクでも温めますか」

いつの間にか開いていた寝室の扉のところから、いつも通りの淡々とした声音でミナは言う。

姿も見えないはずのエカテリーナが眠っていないとなぜ判るのか、不思議で仕方がないが、今さらというか。戦闘メイドのミナには、気配や呼吸音でお見通しなのだろう。

眠っているふりをしようかな……と一瞬思ったが、たぶん無駄なので、エカテリーナは掛け布団から顔を出した。

「心配をかけてごめんなさいね、ミナ。学園祭のことを考えて、なかなか眠れなかっただけなの。気にせず休んでちょうだい」

「お嬢様は頑張り過ぎです」

やっぱり淡々と、ミナは言う。

「当たり前みたいにやってらっしゃるけど、お嬢様はなんでも凄すぎです。そんなに凄いことばっかり、やることないです。頑張らなくて誰かに何か言われるなら、そいつはあたしが片付けます」

淡々と言っているわりに、目が底光りしているミナである。

ひ……久しぶりに、うちの美人メイドにサイコ入ってる件……。

とは思ったものの、エカテリーナは微笑んだ。

「誰も、何も言わなくてよ。ただ、わたくしが楽しくてしているだけなの。

でも、ミナにそんな風に思わせてしまって、わたくし、いけなかったわね。お兄様とも約束しているのですもの、早く休むことにするわ。ありがとう、ミナ」

うん、反省。

私が起きているとミナも寝られない。こんなに身近に、今ここにある過労死の危機!

ミナの業務時間長すぎ問題、今すぐ解消しなければ。

そしてミナが用意してくれたホットミルクを飲んで、あらためて横になったとたん、ぐっすり眠ってしまったエカテリーナだった。

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